手間と思いが育む一級品
石田バラ園/神奈川県
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2016.11.01 UP
神奈川県秦野市、3 棟600 坪でバラ生産に取り組む石田バラ園さん。石田さんが作るバラは、青山フラワーマーケットが取り扱う多くの花の中でも特に高品質。生命力に溢れ日を追うごとに生き生きと輝くバラは、一体どんなハウスで、どんな思いを注がれて育つのでしょうか。 -
- ハウスが物語る、惜しみない手間
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- ハウスに足を踏み入れてまず驚くのが、樹の高さ。男性の背を優に超えるバラの木々が、ハウスの奥までずらりと立ち並んでいます。上に伸びる枝だけを残して剪定する「切り上げ剪定法」を取り入れ、樹の生命力を最大限引き出しているそうです。樹が高くなる分、手入れや選花・採花はより大変に。にもかかわらず、ここでは更に、花首が垂れないように一輪ずつをワイヤーで吊るす手間のかけよう。思わず感嘆の声が漏れてしまうほど美しく整えられたハウスの整然とした光景が、石田さんの惜しみない手間を物語っていました。
- 生きた土で作る強いバラ
- 花の美しさ・咲く力・日もち、石田バラ園のバラはそのどれをとっても一級品です。蕾から徐々に開花し最後までしっかりと咲ききるので、長いものでは1 ヶ月近く楽しめることも。人工培地と養液を使った「ロックウール栽培」を取り入れるバラ生産者さんも多い中、石田さんは3 棟全てで「土耕栽培」を行っています。品質コントロールに栽培技術が必要とされる方法ではありますが、大地の恵みを存分に受けることができ強いバラが生まれるのです。
土耕栽培では土の質がバラの質に直結します。踏みしめる土は、ほのかに湿り気があり柔らか。この“生きた土”こそ、石田バラ園のバラにみなぎる生命力の源です。
「うちでは苗を植える前の土の消毒に熱湯を使います。良い菌も含めて滅菌する薬剤消毒は、繰り返すうちに土そのものが死んでしまう。熱湯なら良い菌が残せるから、ミミズや微生物もすぐに戻ってくるくらい良い状態を保てるんです。」
石田さんは化学肥料も使いません。与えるのは、有機物で作ったオリジナルの堆肥とヤシガラ。排水性がありながら保湿・保温性にも優れたヤシガラは、土中の水分バランスを整えてくれるので土がふかふかになるそう。土の水含みが良くなると、樹や花の水もちも良くなり採花してからも長もちするのだといいます。
- 良質は、“飾り手を想う気持ち” から
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サムライ08、カフェラテ、オール4ハート+。どれも石田バラ園の代表品種ですが、「オール4+ ハートはもう辞めるつもり」と石田さん。
「うちは“咲くバラ” をモットーにしています。オール4 ハート+は奇形が多く開かないこともあって、そういうものはうちで決めている出荷規格からは外れるのでロスが多い。それに、ハウスでは問題がなくても、市場や花屋、お客様のところで何か発症するかもしれないというリスクも高いんです。」
石田バラ園が何よりこだわるのは品質です。石田さんと奥様のふたりが100%納得できるものしか出荷せず、そこには1 本の妥協もありません。市場に着荷を確認しに行ったり、夫婦で規格をすり合わせたり。長さに見合った質でなければ短く切ってランクを落とすことさえあるという徹底ぶり。「40 本1 ケースの出荷で、39 本しか良い物が揃わなかったら、僕は経営者として許容範囲の1 本を入れたくなる。 でも嫁さんは、30 本で出すか次の採花を待つ。規格が崩れてきたらそれを直してくれるのが彼女なんです。」
栽培技術の高さや仕立てへの手間は、高品質のバラを作るにはもちろん欠かせません。けれど最も大切なことは“飾り手を想うこと”。せっかく買った1 本ができるだけ長く美しい姿で楽しめるようにと、石田さんは生産努力を続けます。その揺るぎない信念と優しさが、強く美しいバラを育んでいるようです。