STORY
ユリは有史以前より人々の生活の側にあり、様々な伝承のモチーフとなりながら、その美しさで人を魅了し続けてきました。一方で、華やかで高級感があるが故に、「高嶺の花」「非日常の花」といったイメージも根強く、実際に、市場で取引されるユリの大半が冠婚葬祭をはじめとする業務用であるというデータもあります。青山フラワーマーケットは、ユリをもっとご家庭で気軽に楽しんでいただきたい、という想いから、様々な取り組みを行なってきました。
今回は、私たちと同じく、ユリをもっと生活に根ざした存在にしたい、という強い気持ちを持って栽培に取り組んでいる生産者さんのご紹介です。場所は栃木県の宇都宮市。日本でも有数の年間日照量を誇る同地で、1972年より花卉栽培を始め、現在は年間約110万本のユリを出荷する「F.F.HIRAIDE(エフ・エフ・ヒライデ)」さんを訪ねました。代表の平出賢司さん(画像上)は、2021年に栃木県の農業大賞で知事賞と農水大臣賞を受賞されています。
市場において高値で取引されることを目指し、サイズも大きく、花やつぼみの数(輪数)を増やすことを追求してユリを育てる生産者が多数を占めていた過去、平出さんは家庭での飾りやすさを考え、輪数を抑え、サイズを調整し値頃感のある仕立てにする取り組みをいち早く始めました。また、カサブランカに代表される、大きく香り高いオリエンタル系のユリのみならず、日本原産の小ぶりなスカシユリやテッポウユリなど、さまざまな品種のユリの栽培と提案に積極的に取り組んでいます。
平出さんのユリを語る上で欠かせないのが、「サステナブル」というキーワードです。土の消毒には環境負荷の原因となる薬剤は用いず、熱水と有機質肥料を使用するほか、石油燃料への依存度減少のための太陽光発電を導入しています。これらの取り組みにより、2021年にはオランダ発祥の花き業界における認証システム「MPS(花き産業総合認証)」の最高位であるMPS-A+の認定を取得。名実ともに、日本トップクラスの実力を誇ります。
真摯に取り組まれる、その背景にはどんな理由があるのですか?という問いかけには、澱みのない真っ直ぐな答えが返ってきました。
「環境に配慮した生産活動を行う理由はいくつかありますが、最初のきっかけは『生産者としての実力値』を測る値が欲しかったということ。MPSはヨーロッパ発祥の認証のため、世界レベルで自社の位置付けがわかり、経営の見直しになることが魅力でした。加えて、世界で通用する生産体系を構築することで、欧米への輸出が可能になるなどのメリットもあります」
「農薬低減には地球はもちろんのこと、生産者である自分と従業員の健康を守るという側面もあります。この先も何十年と農業をしていくので、当たり前ですけどリタイアするまで健康でいたいですし、環境にもそうあって欲しいですよね。今現在だけではなく、30年後の花作りを常に考えているんです」
「高品質な花作りと環境負荷を抑えた持続可能な農業」という、一見相反するテーマに向き合い続け、努力と改善を怠らない平出さんの姿は、多くの生産者が追いかける目標となっています。美しいだけでない、付加価値を持った特別なユリが、今日も青山フラワーマーケットの店頭を彩ります。